詩二つ



すっかりご無沙汰してしまって…。
何から書いていいのやら。

両親はディサービスに通い始め、少しはメリハリのある生活になってきた。
ただ介護の手間は日を追うごとに重くのしかかり結構アップアップの毎日。
同世代の友人と話せば多かれ少なかれ同じような立ち位置におり、人生のそういう時期を歩んでいるのかもしれない。
生活面も精神的にも稼動に制限がかかり知らず知らずのうちに余裕がなくなってしている。
このつり橋状態を転落しないように注意深く渡らなければいけない。



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      クリムト 「ひまわりの咲く農園」


「花を持って、会いにゆく」   長田弘

春の日、あなたに会いにゆく。あなたは、なくなった人である。どこにもいない人である。

どこにもいない人に会いにゆく。きれいな水と、きれいな花を、手に持って。

略…

死ではなく、その人がじぶんのなかにのこしていった たしかな記憶を、わたしは信じる。

言葉って、何だと思う?けっしてことばにできない思いが、ここにあると指さすのが、ことばだ。

話すこともなかった人とだって、語らうことができると知ったのも、死んでからだった。

春の木々の 枝が競い合って、霞む空をつかもうとしている。

春の日、あなたに会いにゆく。きれいな水と、きれいな花を、手に持って。

「人生は森の中の一日」

何もないところに、木を一本、わたしは植えた。それが世界のはじまりだった。

次の日、きみがやってきて、そばに、もう一本の木を植えた。木が二本。木は林になった。

三日目、わたしたちは、さらに、もう一本の木を植えた。木が三本。林は森になった。

森の木がおおきくなると、おおきくなったのは、沈黙だった。

沈黙は、森を充たす 空気のことばだ。

略…

やがて、とある日。黙って森をでてゆくもののように、わたしたちは逝くだろう。

わたしたちが死んで、わたしたちの森の木が 天を突くほど、大きくなったら、

大きくなった木の下で会おう。わたしは新鮮な苺を持ってゆく。きみは悲しみをもたずにきてくれ。

そのとき、ふりかえって 人生は森の中の一日のようだったと言えたら、わたしはうれしい。




4年ほど前の6月に名古屋に住む亡き肩こりさんにこの『詩二つ』を送った。
そして今またアマゾンで取り寄せて読んでみる。
可愛い盛りの一人息子を亡くした彼女の少しの癒しになればと。
自分が持っているより彼女のほうがふさわしいと思って送ったのだけれど。
今思えば何だか複雑だ。


もうすぐ彼女が亡くなって1年が経とうとしている。

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2015.05.05 | | コメント(1) | トラックバック(0) |



世界はうつくしいと

注文していた本が届いた。
まず1冊目。

長田弘 「世界はうつくしいと」


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     「世界はうつくしいと」 長田弘

うつくしいものの話しをしよう。

いつからだろう。ふと気がつくと、

うつくしいということばを、ためらわず

口にすることを、誰もしなくなった。

そしてわたしたちはの会話は貧しくなった。

うつくしいものをうつくしいと言おう。

風の匂いはうつくしいと。渓谷の

石を伝わってゆく流れはうつくしいと。

午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。

遠くの低い山並みの静けさはうつくしいと。

きらめく川辺の光はうつくしいと。

おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。

行き交いの、なにげない挨拶はうつくしいと。

花々があって、奥行きのある路地はうつくしいと。

雨の日の、家々の屋根の色はうつくしいと。

太い枝を空いっぱいにひろげる

晩秋の古寺の、大銀杏はうつくしいと。

冬がくるまえの、曇りの日の、

南天の、小さな朱い実はうつくしいと。

コムラサキの、実のむらさきはうつくしいと。

過ぎてゆく季節はうつくしいと。

さらりと老いてゆく人の姿はうつくしいと。

一体、ニュースとよばれる日々の破片が、

わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。

あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。

うつくしいものをうつくしいと言おう。

幼い猫とあそぶ一刻はうつくしいと。

シュロの枝を燃やして、灰にして、撒く。

何一つ永遠なんてなく、いつか

すべて塵にかえるのだから、世界はうつくしいと。



刺激の少ない平凡な毎日の中に埋もれると
心の柔軟性がなくなっていつの間にか無感動な能面のような人間になっていくようで怖い。
何かを美しいと感じることなど日に何度あるだろう。
抑圧されて何かに腹を立てたり、上手くいかないことを他人のせいにして自分をなだめたり。
潤いの少ない柔軟性のない固まった心を抱えていることをふと確認することがある。
心にガードをかけて生きていて何かを美しいと感じることができるだろうか。

詩人長田弘はあとがきで
目に見えるものが目に見えないものに変わる消滅点、ヴァニシング・ポイントをまたいで、姿を消し去ったものが後に残してゆくものが何気ないうつくしさなのだと言っている。
風景であっても奈良や京都の仏像や建築物でも美しいと感動するのは、
毎年繰り返す自然の摂理であるとか、それを作った作者の信念など美しいものを支える何かの力を感じるからなのでしょう。

人もヴァニシング・ポイントをまたいで後を継ぐ者達に感動を与えてこそ美しい人生だと言えるのかもしれない。



2013.08.14 | | コメント(0) | トラックバック(0) |



欠如の原理

 

    生命は

               吉野 弘

生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ

世界は多分
他者の総和
しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?

花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている

私も あるとき
誰かのための虻だったろう

あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない



いつものリズムで毎日を送っていると
他者に自分の足りないところを満たしてもらっているなどとう感覚はほとんどない。
あまり人と深く関わらず、
自分の弱みを人に見せずスマートでクールな人間関係を保つことが最大の自己防衛という風潮があるけど
その反面人間関係に行き詰って心を病む人のなんと多いことか。
時には仕事を辞めてしまおうかと思う時もある。

しかしうっとうしく自分の中では悪の権化のような相手でも
実は見方を変えると良いところも見つかったりして。
案外可愛いところもあるんだな、なんて思うことすらある。
人の見方に余裕がでてきたのは確かに年の功と言えるこの年代になったからかもしれない。
この詩の作者、吉野 弘もこの詩は50代になって書いたものらしいし。

「生命は
 その中に欠如を抱き
 それを他者から満たしてもらうのだ 」

他者からしか自分を変えることが出来ない部分があると今だからこそ言える。
頑固な年代だけど振り返れば認めざるおえないときがあったよね。
それは私の人生の重要な転機だった。
変えてもらったから今の自分がいるんだ。
ありがたいことです。

この先の人生にも私に風を送ってくれる人がいてくれるのだろうか。





2013.06.07 | | コメント(0) | トラックバック(0) |



季節はずれのさくら

 
ふゆのさくら    新川和江


おとことおんなが

われなべにとじぶたしきにむすばれて

つぎのひからはやぬかみそくさく

なっていくのはいやなのです

あなたがしゅろうのかねであるなら

わたくしはそのひびきでありたい

あなたがうたのひとふしであるなら

わたくしはそのついくでありたい

あなたがいっこのれもんであるなら

わたくしはかがみのなかのれもん

そのようにあなたとしずかにむかいあいたい

たましいのせかいでは

わたくしもあなたもえいえんのわらべで

そうしたおままごともゆるされてあるでしょう

しめったふとんのにおいのする

まぶたのようにおもたくひさしのたれさがる

ひとつやねのしたにすめないからといって

なにをかなしむひつようがありましょう

ごらんなさいだいりびなのように

わたくしたちがならんですわったござのうえ

そこだけあかるくくれなずんで

たえまなくさくらのはなびらがちりかかる




直木賞を取った「abさんご」
75歳で賞を取ったのも異例なことだけど全てひらがな横書きの小説も異例なことだろう。
この詩も全てひらがなで読みにくい。
それでもなお心をつかんで放さない。
現世の枠から浮上した、様々な苦しみやせつなさの上に成り立つ深い想い。
寒い冬に舞うさくらの花びらはどこから降ってくるのだろう。







  

2013.02.09 | | コメント(0) | トラックバック(0) |



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Author:kajika
吾唯足知 (龍安寺のつくばい)
京都が大好き。
1年に数回出かけています。

京都旅行記から始まったBlog。
遅速ながら結構長く続いているものです。
日々の記録も兼ねて続けたいと思っています。

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